平成28年9月5~9日の5日間に渡り、南4号館3階実習室において、Gaussian ワークショップ2016を東京工業大学 物質理工学院応用化学系, 東京工業大学 学術国際情報センター 計算化学研究会とGaussian社の共催、および富士通株式会社の協賛で開催した。今回のGaussianワークショップは7年振りのメジャーバージョンアップであるGaussian 16の発売を控えて、Gaussian 16 および Gauss View 6を用いたハンズオンのワークショップに90名の参加者があり、盛大に開催された。
Gaussian 09 / 16は、スパコンTSUBAME2.5にもインストールされ、非常に多くのユーザにご利用いただいている量子化学計算プログラムであり、ノーベル賞を受賞したJ.A.Pople博士(注1)らによって開発され、現在も全世界で圧倒的シェアを誇っている。元々は計算化学の分野で利用されていたが、PCの高速化により計算化学が身近になったことや、量子化学の理論とプログラムの改良によって実験値を高精度で再現可能となったことにより、現在では多くの実験家も日常的に利用するようになっている。
Gaussian ワークショップは年数回のペースにて世界各地で開催されており、東工大での開催は2012年2月以来4年振り2回目となる。開催地として東工大が選ばれた理由は、世界トップレベルのスパコンTSUBAME2.5の存在、大人数による演習が可能な整ったPC端末利用環境、東工大の所属者以外も利用可能なGaussianライセンスの保持、そして海外からの参加者のためのアクセスの良さなどが挙げられる。
ワークショップのスケジュールは、午前9時~午後3時に講義、その後6時まで演習があり、第二演習室にて行われた。講義は英語で行われ、分子軌道法の基礎的な理論から応用研究に利用可能な新機能までの幅広い内容について、Gaussianを開発している4名の教授陣による丁寧な説明があった。参加者からは理論的な質問のみならず、実際の計算において直面している具体的な質問も数多く出され、プログラムの利用方法を踏まえた詳細な回答がなされた。演習では、全ての参加者がPC端末のGaussian 16とGauss View 6を用いて、実践的な計算方法を学んだ。
また前回に引き続き、参加者によるポスターセッションも行われ、参加者が実際に扱っている研究対象において、Gaussianを利用してどのような成果を上げているかを、講師の先生方や他の参加者と議論した。ワークショップで取り上げるのは一般的な内容となるが、ポスターセッションを行うことで参加者が直面している個々の問題を詳細に議論することができ、より理解を深めることに繋がる良い取組みと好評だった。
本ワークショップで利用されたGaussian 16W および Gauss View 6は、発売前のバイナリ―を本ワークショップのためにGaussian社よりご提供いただいた。ワークショップ開催直前までブラシュアップした正に最新のバイナリーを東工大の演習室の全PCに一時的にインストールを行うため、川内研究室と古屋研究室の学生さんには多大なる協力を頂いた。この場を借りて感謝したい。突貫工事での環境設定ではあったが、ワークショップ中には特に目立ったトラブルもなく順調に行われ、参加者へ最新の利用環境を提供することができたのは喜ばしいことであった。本ワークショップの1週間が、これから計算化学を始めたい実験化学者から量子化学を専門とする研究者までの多くの参加者に対して有意義なものとなったことを期待したい。
注1 J.A.Pople博士: 実験データに基づく経験的パラメータを一切用いない非経験的分子軌道法の普及の功績により1998年にノーベル賞を受賞。